飲食店の税務調査対策
『税務調査』と聞くと税務署が、難クセ付けて税金を持っていくんじゃないかと不安を持たれる方がもいらっしゃるでしょう。
この記事では、その誤解を解きつつ、実態と対策をお伝えします。
「税務調査」とは、税務署の調査官(職員)が納税者のもとを訪れ
提出済みの申告書に記載された数字の根拠を調べる機会のことで
その対象は、個人事業主から法人まで幅広く
申告漏れや過少申告が疑われる場合に実施されることが多いです。
税務調査の実施時期について
税務調査の実施時期は、春と秋に集中しています。
春が多い理由は、確定申告が行われる3月15日までは税務調査が行われない為。
秋が多いのは、税務署は7月に人事異動がある為。
税務調査は、途中で担当者が変わる事はありません。
なので、7月の人事異動後に、新たな調査先の洗い出しを始めます。
資料を調べたりしていると、実働は、お盆過ぎの秋になってしまう。
といった事情から、税務調査は春と秋
特に大型案件は秋が多いとされています。
税務調査の流れ
税務調査は通常、次のような流れで進行します。
- 事前通知: 税務調査が行われる数週間前に、税務署から関与税理士に電話があります。
※飲食店の場合、前触れもなく、ランチが終わるくらいの時間帯に訪問を受けることがあります。 - 実地調査当日: 担当調査官が、指定の場所(お店や事務所)を訪問し、経営者へのヒアリングから始まります。
またこの時、筆跡を確認するためにメモの提出を求められることもあります。
その後、必要な書類や帳簿の提示を求められ、逐次質問がされますので、対応してください。
時間にすると、おおよそ10時頃から16時頃までで、お昼休憩は1時間外出します。 - 調査結果の報告: 実地調査以降は、税理士が窓口となって税務署と折衝します。
問題となる部分があれば、修正申告の提出と追徴課税が課されます。
税務調査の日程は、税務署の都合で決められたものですから
税理士・納税者の都合で変更はできます。
ただ、どんなに愚図っても
一度連絡があった税務調査が、中止になる事はありません。
無理のない範囲で、対応するようにしてください。
飲食店特有の税務調査の論点
飲食店に税務調査が入るのは、現金取引が多いからです。
ここからは、税務調査に対応できる取引の記録方法についてお伝えします。
売上の管理
飲食店の税務調査では、売上の計上漏れを探しに来ます。
その為今回は、売上の漏れを疑わせない方法、通帳入金の突合等についてまとめます。
売上の計上漏れ対策
飲食店に限らず現金商売では、売上の一部をレジに打ち忘れることで
売上の一部が計上漏れになり
修正申告をする事が、よくあります。
どうして、税務調査で売上計上漏れを指摘できるのかというと
- 売上を漏らしながら、それに相当する原価を削除していない為、原価率が高くなっている
- おしぼりや割りばしの消費量に比べて客数が少ない
等の、数値のバランスから、あぶり出されてしまうのです。
一方で納税者は、税務調査の際
売上は漏れなく、すべて計上していることを証明して早々に終わらせたい。
と、考えます。
ここで問題が生じます。
実は、売上漏れが無い証明というのは、非常に難しいです。
なにせ、『無い』ことの証明ですから、痕跡がない訳です。
そこで、昔から使われているのが
紙の売上伝票に連番を振る方法です。
連番を振っておけば、もし、漏れがあれば直ぐに判明します。
その反面、番号が揃えば、漏れている可能性は限りなくゼロに近いと推測されます。
なので、紙の売上伝票をお使いの飲食店さんは、連番を振る事をお勧めしています。
もちろん、キャンセルになった売上伝票は、✕を付けて
他の売上伝票と一緒に保管しておかなければいけませんし
メモ代わり使うこともやめてくださいね。
もっとも、最近のセルフオーダーシステムでは、注文から会計までが一連なので
売上計上漏れの可能性は低いと考えられます。
通帳入金の突合
さて、連番を振った売上伝票を使って日々の売上を集計したら
次は、現金売上の預入れです。
下の表は、弊所の顧問先で実際に使っているものに、手を加えました。
表の下のバナーをクリック(タップ)してもらえば手に入ります。
クリック(タップ)して、手に入れてもらった表には
「売上目標達成シート」という名前がついています。
が、この表は、入金管理機能を備えております。
表に記された金額を入金していけば、税務調査対策となります。
つまり、この表に日々の3つの売上データを記入するだけで
- 売上の目標達成ができるだけでなく(売上目標は、ある数字を使って自動設定済み)
- 売上分析もでき
- 入金管理もでき
- 結果、税務調査対策もできる
という、なんとも、心強いシートです。
よかったら、あなたのお店でも、試してみてください。
税務調査対策の観点から言えば、この表のポイントは
「預入れ」の金額を、正確に通帳に入金することです。
円単位で、入金することで、その日の現金売上の裏付けとします。
意外な落とし穴がコレ!
コロナ禍を経験して
店外に自動販売機を設置した飲食店も多いのではないでしょうか。
自動販売機の売上は、計上漏れになりやすいです。
集金のルールを決めて、通帳に入金しておきましょう。
支払の管理
飲食店では、毎日のように買い物が発生します。
領収書を保管するのは当然ですが、その合計金額を通帳から円単位で引き出すようにしましょう。
入金と同様に、その金額を通帳に記録させることで
架空経費ではなく、本当に現金支出をしている裏付けとします。
ま、通帳をお店の帳簿代わりにすると思ってもらえばいいでしょう。
人件費の管理
税務調査の際、調査官がチェックするポイントとして忘れていけないのが、人件費です。
タイムカードの使用枚数や、賄いで使う箸の数は、目ざとくチェックされます。
これらは、外部の人の目が届かないようなする配慮が必要です。
お給料は「お店」と「従業員」との取引です。
年間の取引集計である年末調整
毎月の給料計算と、そこから控除する
- 源泉所得税
- 社会保険料
- 賄い
- 給料の前払い
の処理が適切に行われているか。
その手続きが速やかに行われているか。等が流れに沿って確認をされます。
また、シフトに変更があった場合は速やかに訂正し、保管しておきましょう。
事例
これは、複数店舗を運営していた飲食店で起こった事例です。
2号店は、腹心の部下を店長に昇格させて営業していました。
経営者は、2号店の事は全て店長に任せており、日報の提出は義務付けていましたが
仕入は勿論、広告やアルバイトの募集も店長の裁量で行われていました。
そんなある日、税務署の調査が入りました。
経営者はやましいことがないので、平然と対応していました。
が、2号店の話になると、様子が変わりました。
詳細が、判らないんです。
で、正直に実情を申し上げました。
すると、税務署の担当者は、話を聞くことができないなら
残っている資料を貸して欲しいと言い出し、ダンボール箱に入れて持ち帰りました。
後日、判明した現実は、、、
実は、2号店の売上伝票には、注文の取り消しが頻繁に発生していました。
まぁ、飲食店においては、提供が遅くなったりして、キャンセルが発生することは珍しくないのですが
その量が、半端なく多かったのです。
どうやら、店長が提供済みの商品をキャンセル扱いにして、売上を勝手に値引いていたのです。
値引いてもらった客は、「あそこに行くと、安く飲み食いができる」と、入り浸っていたようです。
説明を受けた経営者には、心当たりがあったようで、何も言えませんでした。
結果、店長がキャンセル扱いにして値引いていた分の売上が、「売上計上漏れ」とされ
経営者は修正申告を提出し、追徴課税が課されました。
(注)こういった場合、店長個人にはお咎めは無く
会社・経営者が従業員の監督責任を問われ
税金の負担をします。
その後このお店では、話し合いが重ねられました。
店長の長時間労働の問題を発端として、積もりに積もった不満が噴出し
収拾できないほどの混乱を招きました。
それを一つずつ解決することで
組織の風通しを良くする動きが活発となり
今では、店舗数も増え、会社組織にして
地元の皆さんに愛される飲食店として
地域に貢献しています。
税務調査は怖くない
事例でも紹介したように、税務調査は、必要以上に恐れるものではありません。
飲食店ではフツーに経営していれば、税務調査対策の要点を押さえることになります。
売上の管理や入出金の記録を残すところまでは、手が回っていなかったかもしれませんが
ここまでやっておけば、税務署の調査にも自信を持って対応できることが
ご理解いただけたのではないでしょうか。
また、今回紹介した3つの数字から始める「売上目標達成シート」を活用すれば
さらにスムーズな飲食店経営が可能となります。
税務調査対策の一環として取り入れてみては如何でしょうか。
また、不安な点や疑問があれば、ご相談ください。